T 無名王女



 目が覚めて最初に見えたものは天井だった。
 もちろん僕には立って寝るなどという変わった趣味は専ら無く。これといって人に語れないほど特に寝相が悪いわけでもない。だから大体の人と同じように寝起きのいまいち回っていない頭に思い浮かんだのはせいぜいああ天井があるなぁってくらいのことだった。
 寝ぼけた視界を狭くしている前髪を払おうとして体がもの凄くだるいことに気付く。腕を持ち上げるのにもひどく時間が掛かった。長時間、それも人に言ってしまうと恥ずかしくなるような時間寝てしまったときの倦怠感に似ているような気もする。
 何とか体に言うことを聞かせて前髪を払いのけようやく広い視界を得られた頃、ちょうど良いタイミングで僕の頭も物事を考えるのに役に立つ程度には覚醒していた。そしてやっとなぜ僕が最初に天井を強く意識したのかを自覚した。
 それはここが僕の部屋じゃなかったからだ。
 そもそも僕の部屋は洋室じゃない。もちろん天井だけが洋風の訳もなく、さらに今更気付くのもどうかと思ったりするけど、僕はベッドではなくいつも布団に寝ている。もっと間抜けな話をするなら僕が今まで天井だと思って眺めていたのは部屋の天井では無く、ベッドに取り付けられた天蓋だった。
 何もかもが僕の部屋とは違っていた。
 しがない地方の美大に通う僕の部屋とはまるで正反対。そんな言葉がぴったりの部屋に僕はいた。まるで子どもの時に読んだおとぎ話の様な部屋だ。
 「旅行にでも来ていたろうか?」と考えて、一瞬にしてその答えが間違っていることに気付く。仮に旅行に行くことがあったとしてもこのロイヤルスイート並みの広さと豪華さを兼ね備えた部屋に僕は絶対に泊まれない。もし、そんなお金があるのなら僕はもっと良い部屋を借りている。とりあえず六畳一間(かろうじてトイレとバス付き)には遠慮してもらって、1K(もちろんトイレ、バス付き)の部屋くらいに部屋のランクをレベルアップさせているだろう。
 じゃあ最後は夢だなと思いお約束通りに僕は頬を抓った。さすがにこれ以上お約束は無いだろうと腹をくくり思い切って強く抓ってやった。
「った!」
 もの凄く痛かった。
 頬がジンジンする。こんなことならもっと優しく抓れば良かった。いや、そもそも抓るなんて行為自体を夢の中ではしないという結論に至る。だって、夢の中ではそんなことを考える余裕なんて無いに決まってる。
 たとえそれが良い夢でも悪い夢でもだ。
「痛ッ!」
 暗くなりかけた僕の頭の中で突如何かが鳴った。頭を鈍器で強打されたような鈍い痛みに僕は思わず呻いていた。前髪を払って一仕事終えたばかりの右手でこめかみをきつく鷲掴む。無意識に痛みで痛みを打ち消そうとしたのかもしれない。
 数秒の苦心の末、何とか痛みは引いていった。ほんの少しのことだったのに、僕は驚くほど汗をかいていた。これだけ豪華な部屋ならタオルくらい備えてあるだろうと、僕は未だに重い体に鞭を打ち込んで起きあがった。
 僕の体重を一カ所に受けたベッドがギシッと音を立てて軋んだ。体を持ち上げようと片手を着くと手首の当たりまでが掛けられていた布団で埋まり、心地良い質感が手首までを覆った。少しこそばゆくもあるけどきっとこれならぐっすり眠れるだろうという確信が得られる。もし僕がまたここで眠るようなことがあればもっとしっかりこの感触を味わおうと忘れないように心に刻む。
 そう思うと気持ち心が軽くなる。「ヨッ」とかけ声と共に勢いよく腰を上げた。
 でも、どうやらそれは僕の体が本調子でないのに取るべき行動では無かったらしい。
 跳ね上げた僕の体は僕自身には荷が重かった。
 自信の体重を支えきれず、僕の足は脆く崩れゆく。
 何かにすがるように、僕は必死になって空を漕いだ。何故かベッドに戻るという考えは浮かばず、僕はただ一点に、惹かれるように、何かを求めるように近づいていった。
 それはたった一枚の扉。
 ちょっと豪奢な造りだというだけで、他には特に明記できるところのないこの部屋にしてはおかしくない普通の扉だ。
 でもこのときの僕の意識はまだ現実と空想の狭間を彷徨っていて、とりあえず自分の存在を確かに感じ取ることが出来ていただけだったんだ。だから僕のいるこの世界そのものの定義を感じ取りたかった。その扉を開けることで僕はその定義にほんの少しでも触れることが出来るような気がしていたのかも知れない。
 僕の体は感じ取っていたのだろうか?
 だって僕のその時の意識はこんな風に哲学的な考えを持つに至らず、やっぱりただそこに行きたかったということしか思い浮かばなかったんだから。
 でも、だからこそ僕の体は必死になって僕をその扉まで連れて行ってくれた。もう、手を伸ばせば触れることが出来るだろうというくらいまで。
 何か心の支えを得たかのように、僕はそこに手を伸ばし、当たり前のようにそこに全体重を委ねた。
 綺麗に漆を塗られた、きらびやかな装飾の施された扉。
 でも僕の差し出した手がその扉のひんやりとした感触を味わうことは無かった。
 まさにタイミングを計っていたかのように扉がスッと遠ざかったんだ。
「え!?」
 それが遠ざかったのではなく、ただ扉が開いただけなんだということに気付くのに僕は一瞬の時を必要とした。
 実際は要したのではなく思考がそれに追いついていかなかっただけだけど。
 僕は開け放たれた闇の向こうに倒れ込み、小さな悲鳴と一緒に柔らかな衝撃を受けた。
「きゃッ!?」
 僕の脳がしたたかに揺れる。
 それがしたたかで済んだのは僕とつま先が埋まりそうな深い絨毯に挟まれた柔らかな“モノ”のおかげだった。それが無ければきっと今の僕はもっと激しい痛みを体に受け、脳を揺さぶられていたに違いない。
 しかしそこで誤算が一つ。今の僕には例えしたたかでも脳への衝撃は致命的になりかねなかった。現に、今僕はそれを受けてこうして身動きが取れないでいる。霞む視界が僕に休息を要求していた。意識した感覚の全てが使い物にならない中、ただ一つ救われたのは僕の鼻孔をくすぐる暖かな香り。以前どこかで嗅いだような、懐かしくて心地良い香りが僕の心を落ち着かせ、浄化していく。大袈裟に言い表せば天使の胸に抱かれるような感覚、と言ったところだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
 控えめで優しい声が耳に届く。でも、今の僕にはそれに応えるだけの体力と気力が無い。
「――――――!?」
 何故か懐かしい響き。
 懐かしい?
 何が?
 何で?
 君は――!?

 目が覚めて最初に見えたものは天井だった。
 ついさっきと同じ天井――同じ?
「ッ!?」
 先ほどとは打って変わり、勢いを付けて上半身を起こした。まだ多少の頭痛が残ってはいたけど僕の体は先ほどと比べると嘘のように軽かった。
 勢いよく跳ね起きた僕は探したかった。
 さっきの虚ろな感覚の中で感じた物の正体を。そして、ここは一体何なのか――
「その様子だともう大丈夫みたいですね」
 クスリと控えめな笑みで彼女は笑った。
 それはデジャブなんかじゃなかった。
 鮮やかな輝きを放つ長い黒髪。向き合っただけで優しさの伝わってくるような穏やかな瞳。ずっと見ていたくなるような品のある顔立ち。
 それはまるで――
「あの、――」
 何かが出てきそうになった瞬間、彼女の声で現実に引き戻された。
「大丈夫ですか?具合が悪いようでしたらまだ横になられていた方が――」
「いや、大丈夫。まだ少しふらつくけど、動く分に支障はないから」
 気遣ってくれた彼女を心配させないように笑顔を作る。彼女を心配させてはいけない。何故か僕の思考にそのことが強く表れた。
 この感覚は一体なんなのだろう?
「君は、誰?」
 何色もの絵の具を適当に混ぜ合わせたかのようなグチャグチャの思考の中で、行き着く色がただ一つであるように僕は自然と一つの質問を口にしていた。
 聞いてはいけないと思った。
 でもそれ以上に聞かなければいけないとも思った。
「君は、僕を知っているの?」
 それとも、
 僕が君を知っているのか?

「まず、」
 コホンと小さく咳払いをして彼女は口を開いた。
「私以外の人がいる場所での最初の質問は止めた方がよろしいですよ。下手をすると首が飛んじゃいますから」
 ウフフと口を手で隠して笑う。
 いや、ウフフって。冗談でも洒落になって無いんですけど……。とりあえず僕は運が良かったって事で良いのかな?うん、そういうことにしておこう。じゃないと怖いし。ついでに他の人の前でこんな事は二度と口にしないように心に誓う。首が空を飛ぶのは流石に遠慮したい。
「あ、冗談じゃないんで本当に気を付けて下さいね」
 いや、ニッコリ笑って念を押されても。
「肝に銘じときます」
「はい」
 何か語尾に八分音符辺りが付いてるような気がするんですけど。
「そして、残念ながら私はあなたの質問に答えることは出来かねます」
 それはやっぱり首が飛ぶって事デスカ?
 僕の思惑を感じ取ったのか、彼女は慌てて否定する。
「あ、大丈夫ですよ。首が飛んだりはしませんから」
「それは助かる、かな」
 社交辞令とかじゃなくて本気と書いてマジで。
「とりあえず人にお名前を尋ねるときは自分から名乗る方がよろしいかと思いますよ。特にあなたは殿方ですし、レディにおもてになりませんよ?」
 女の子にもてるもてないはともかくとして(いや、そらモテたくないのかと聞かれるとモテたいと答えるけど)、確かに自分から自己紹介をするのは礼儀だろう。西洋を舞台とする漫画か何かとかでもそうだったような気がする。
 かといってここが西洋かどうかと聞かれたら………
 ふと自分がいるところを思い出す。待て、落ち着け自分。落ち着いてちゃんと周りを見てみよう。
 まず、天蓋つきの豪奢なベッド。
 うん、まあこれでもかってぐらいブルジョワな家ならあるんじゃないだろうか。そういうことにしとこう。
 他にも見渡せばこれでもかっていうくらい高そうな装飾品やらがむさ苦しくない程度に飾られている。良くいる悪趣味なブルジョワとは違い、ここの主は良いセンスの持ち主のようだ。
 問題は僕の知る限り、僕の行きそうな所にこんなにお金持ちな家があったかどうかだ。
 悪いけど僕の頭にはそんな記録はこれっきしも無い。
 …………………………
 どれだけ考えてみてもやっぱり無いモノはない。
 それとも僕の記憶力はよっぽど頼りないのか、もしくはどうでも良いことをさっぱり忘れてしまっているような風変わりな記憶喪失とかいうやつなんだろうか。とりあえず僕自身の診断としては両方ともあり得ないということを信じたい。
「あの〜」
 誰かが僕の顔をのぞき込んでいる。
 誰か……
「うわッ!?」
「そんなに驚かれると私少しショックですわ。そんなに私はひどい顔でしょうか?皆さん結構褒めて下さるんですけど……」
「いや、そういう意味で驚いたんじゃなくて、ただちょっと自分の世界に入り込んでただけだから心配しないで。君の顔がひどいなんて事じゃないから。それにひどいどころかとても、うん、その可…ぃとその……」
 悪いけど僕は面と向かってその人にどうこうとか言うのは得意じゃない。特に綺麗だとか好きだとかそういうのは全くもって言えない。言ったことが全くないわけでも無いんだけど、やっぱりそのそういうのは言うのが恥ずかしい。別に言えないからといって困ることもないが、たまにそういうことを言える人が羨ましくなることもある。
「え?何ですか?良く聞こえなかったのでもう一度お願いします」
 そしてやっぱりさっきのも聞こえてなかったわけで。
「いや、何でもない。それよりも自己紹介しよう。自己紹介」
 我ながら強引すぎるほどに強引だがとりあえずこれで押し切るしかない。もう一回今の言葉を繰り返すなんてゴメンだ。
「あ、そうでしたね。忘れるところでした」
 簡単に流される子で助かった。
「僕は河渡燕(カワタリツバメ)、19歳。探せばどこにでもいる美大生だよ。よろしく」
 彼女が流されている内にさっさと自己紹介を済ませる。このまま話の流れを別方向に持って行けば二度と追求されないような気がする。
「カワタリ様ですね。よろしくお願いします」
「ツバメで良いよ。みんなそう呼ぶから」
 実際僕のことを名字で呼ぶ人間はかなり少ない。バイト先の店長とかにも名前で呼ばれるくらいだ。僕のことを名字で呼ぶのなんて大学で親しくない教授くらいだ。年の近い人に名字で呼ばれると逆に何かこそばゆくも感じる。
「分かりました、ツバメ様」
「できればその様付けも何とかならないかな?」
 名字だけでもこぞばゆいのに、様まで付けられると何とも会話しづらい。というか照れ臭い。第一、様付けされるほど僕は偉くないし。
「いけませんでしたか?」
 彼女がしかられた子どものような目でこっちを見つめてくる。見る人から見ればキラキラしたモノが見えなくもない、と思う。
「いや、いけないって訳じゃないんだけど――」
「それではやはりツバメ様ですねッ♪」
 そこが喜ぶ事かどうか僕には分からないけど、彼女にとっては喜ぶ事らしい。何故か手放しに喜んでくれている。
「いや、うん、はい」
 そして僕にそれをもう一度「止めて下さい」と言えるわけもなく。ああ、NOと言える日本人になりたい。絶対無理だけど。
「じゃあ、次は君の番だね」
 気持ちを切り替えよう。何か随分とここまで来るのに時間がかかったような気がするけど、気にしないでおこう。うん。人生は常に後悔の連続だってどっかの本か何かで読んだような気もするし。
 それに知りたいことが知れるんだから別に困ることは無いんだし。何てったって急がば回れって言葉もあるくらいだし。
「あ、そうでしたね」
 テヘッと舌を出しながら彼女が笑う。どうやら自分の事を聞かれたことをすっかり忘れていたらしい。口に出すのははばかられるが、この子大丈夫だろうか?と少し心配になってくる。
「あ、でもその前に一つ質問の方よろしいですか?」
 どうやら僕はまだお預けを食らうらしい。
「ああ、うん、どうぞ。僕に答えられる事なんてそうないと思うけど」
「えっとですね、ビダイセイとは何でしょうか?」
「…………あ〜、それは何かの冗談か何かなのかな?」
 僕の言い方がおかしかったかどうか考えてみたけどそういうわけでも無いだろう。
「私何かおかしな事言いましたか?」
 そして向こうもそのつもりのようだ。
「……………………」
「……………………」
 どうやら僕の質問の答えが得られるまではまだ当分かかりそうだ。

「つまりビダイセイというのはショウ学校、チュウ学校、コウトウ学校の次に自主的に行く学校に通う人のことなんですね」
 説明を始めること約二十分強ようやく彼女は美大生の意味を汲み取ってくれた。ただ大学のことを説明するだけなら数分で十分だったんだけど――実際の所、彼女の好奇心がそうはさせてくれなかった。説明しても次から次へと疑問が溢れ出てきて、結局、僕の知る限りの日本の教育システムを説明させられてしまった。
 はっきり言ってもの凄い疲れた。
「要するに上流院(ジョウリュウイン)のことですね」
 そして結論はこの一言に落ち着いたらしく、良く分からないけどその上級院とやらは彼女の視点から見て大学と同じような物らしい。
「でもツバメ様は凄いんですね。上流院に通われているなんて、尊敬します。上流院には国家選別試験を突破した人だけが入院を許可されるんですよね」
 「凄いですね」とまた最後に付け加えて笑う。
 きっと彼女の言う『国家選別試験』とかいうのはもの凄く難しい試験に違いないんだろうけど、あいにくと僕の通っていた大学はお世辞にも人に自慢できるような所じゃない。少なくとも僕の思う限りでは多少絵に自信のある人間なら誰でも通える。そんなところだ。
 というかそもそも僕のした説明なんて彼女くらいの年頃の子なら誰でも知ってると思うんだけど、どうなんだろうか?上流院?とか彼女は言っていたけれど日本にはそんな物存在しないし、となると彼女は外国に住んでいたりしたのだろうか?それならまだ納得出来るような気もしないでもない。僕の知る限り上流院とかいう学校の制度は聞いた事がないけれど、世界は広いんだしそんな国もあるかもしれない。
 まあ、とにかくこれ以上話しを脱線させるのもなんだし、とりあえずその話しは置いておこう。きっと聞こうと思えば後からでも聞けるだろうし。
「とりあえず、分かってくれたのかな?」
「はい、ありがとうございました」
「そう、それは良かった」
 うん、本当に。
 彼女の見せてくれる笑顔には僕の疲労に値するだけの価値がある。それくらい彼女は喜んでくれているし、そんな彼女は魅力的だ。
「じゃあ、今度こそ、君のことを聞かせてくれるかな?」
 そして何よりもやっと欲しい物が手に入る感覚が僕には嬉しかった。
「あ、そうですね。すっかり忘れてました」
 「ごめんなさい」とチロッと舌を出して笑う。この仕草は彼女の癖か何かなのかな?どことなく僕が見た彼女の数少ない動きの中でこの動作が一番自然に感じる。そういう動作は経験上その人の良く取る仕草や癖だったりするんだよね。
 もっとも、このことを他の人に話してもいまいち意味が通じなかったりするけど。
「あ、」
 今度は何だろう?質問はもう勘弁して欲しいんだけど。
「でも私からツバメ様の欲しがってるようなことはお話しできないと思いますよ?」
「へッ?」
 自分でも呆れるくらいに間抜けな声が出た。
「それはどういう事?」
 僕はそんなに難しいこと聞いたっけ?と、自分の言葉を頭の中で反映させる。というか僕は彼女に名前以外まだ聞いてないような気がするんですけど。
 これは何というか。まさかこの年になってイジメに遭ってます、僕?
「あ、気を悪くなさらないで下さいね」
 彼女が僕の気を察したらしく、慌ててフォローを入れた。
「正しくはお教えしたくとも出来ないんです」
 ますます意味が分からない。
 彼女の名前に懸賞金でも懸かっているとでも言われるのか?もれなく彼女の名前を当てれば一攫千金なんて夢のようなキャンペーンでもやってるんだろうか?
「何それ?君の名前はトップシークレットか何かなの?」
 彼女には悪いけど僕の声色はムッとしたものになる。だってしょうがないだろ?ずっと彼女のことを『君』と呼ぶわけにもいかないしさ。
「そうですね。簡単に言えばそんな感じですね」
「えッ!?」
 一番あり得ないと思ったのに当たりなのか……
「そして、残念ながら今のところその問いに答えられる人はこの国に誰もいないんですよ」
 この国?
 ここは日本じゃないのか?
 いや、それよりも――
「えっと、てことはつまり……」
「はい、私には名前が無いんです。そうですね、あえて自己紹介をするなら――」
 頭の中で情報が入り乱れる中、彼女は言葉をつづった。
「無名王女(ネームレスプリンセス)でしょうか?ようこそツバメ様。変名国家ニフラへ。変名国家一同歓迎致しますわ」
 そう言って無名王女は僕をその国に招き入れた。
 変名国家ニフラへ。
 


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