今、君に出来るほんの少しの事



 彼の眼に彼女は希望の光のように輝いて見えた。
 だから彼は散々悩んだ末に、彼女に声を掛ける事にした。
 例え、それがどれだけ彼自身にとって都合の良い話だとしても。
 それでも彼は一縷の望みを彼女に託す事にした。
 それは万に一つの可能性はなくとも、億に一つならというダメモト的な考えであった。
 これでダメなら諦めようとすら彼は思っていた。
 それほどに、彼の願いは端から見れば全くと言っても良いほど利益のない、しかし彼にとっては大きな意味を持つ願いだった。
 彼はそっと、おそるおそる彼女の肩に手を置いた。
 少しばかりの刺激でも壊れてしまう出来立てのガラス細工を扱うような、そんな繊細な動作だった。
 肩に触れるかどうかの長さの髪が緩やかな弧を描き、次第に彼女の顔がこちらを覗き込んできた。
 それはコマ送りにしたくなるような麗しさを含んだ写真のような画であった。
 彼は一瞬ハッと息を呑んで戸惑ったが、どうにか一言、願いを込めて口にする。
「僕に付き合ってくれませんか?」

 ここ数日彼女の様子がおかしい。
 蒼伊 海空(あおい みそら)は彼女のここ数日の動向を見ていて、そう思った。
 それはきっと彼女――星海 未時(ほしうみ みとき)を良く知る海空だからこそ気付いた、そんな感じの本当に些細な変化だった。
 一言で言うと付き合いが悪くなったのである。
 しかしながら星海未時という存在は元から付き合いの悪い人間だった。それは聖光女学院の誰に対してでもそうであった。
 容姿端麗。
 誰が見てもそう思う事は間違いないほどに未時は整った顔立ちをしていた。
 肩口に触れるかどうかのきわどい長さの髪はいつも陽光を浴びて煌びやかに輝き、モデルのような誰もが憧れるであろう体躯。しかし、何よりも彼女を彼女たらしめているのはその性格であった。
 彼女のそれは容姿とは遥か遠くにかけ離れるほどに女性的なモノではなかったのだ。
 どちらかと言えばそれは明らかに男性のそれに近かった。この未時の性格は聖光女学院においては全くもって似つかわしくないものであったが、未時本人はそれを上手い事隠し通していた。
 まぁ、実際そう思っているのは本人だけだというのはともかくとして、未時はそういった容姿と性格を併せ持ってしまったが為に、彼女たちの通う聖光女学院で騎士的な存在として黄色い視線を一身に浴びるハメになっていた。それが彼女は嫌でたまらなく、誰か特定の人物と親しくすることはなかった。
 彼女と対の存在である海空と出会うまでは。
 同様に容姿端麗ながら、蒼伊 海空の性格はまさに未時とは対極のモノだった。生粋の白のイメージを持ち、その根元となっている髪は腰の長さまで届いていた。
 彼女は学院という名の城に住む姫に違いなかった。
 二人は真逆の冠を抱かされながらも、その思いは同じくとしてその世界に居心地の悪さを覚えていた。
 そして二人はついこの間出会った。
 それからは少しだけこの学院という名を持つ世界が馴染んだ気がした。
 特に何かをするわけでもなく、夕日の差し込む時間までを旧校舎のもう誰にも使われていない図書室で二人で過ごす。
 そんな時間が海空は好きだった。
 きっと未時も同じように感じてくれているのだと思う。だからそこはとても居心地の良い場所になっていた。
 そしてだからこそ分かる。
 星海未時がどこかおかしいということが。
 何故なら彼女は急に二人だけの空間に来なくなってしまったのだから。
 しかし、海空が未時を発見したのは翌日の夕暮れ、図書室で独りを過ごした帰り道のことだった。
 いつもは風に遊ばれるままの肩口までの綺麗な髪を後ろで纏めてベレー帽を被り、色の薄いサングラスを掛けてはいたが、それは間違いなく星海 未時であった。
 間違う訳がない。海空には根拠のないそんな自信があり、それは絶対的な確信だった。
 何でこんな所にいるのだろう。
 しかも二人で。
 その上男性と。
 それではまるでデートではないかと、思わず今曲がってきたばかりの角に戻り隠れてしまった海空である。
 ただでさえ彼女の取った行動は奇妙以外の何物でもないのだが、そんな彼女が聖光女学院の制服を着ているせいでその光景は余計に奇怪に見えた。更に彼女の珍しい艶やかな白髪は嫌でも一目を引き付けていて、その上でこの上ない美人でもあるので、そこには何重にも輪がかけられいく。
 彼女が隠れている角を通り過ぎる人々はこぞってそんな海空に視線を向けていたが、それが海空の感性にまで届く事はなかった。既に彼女の気持ちは全て視線の先にいる二人に向けられていた。

「美味しいですか?」
 彼はニコリと微笑みながら、自分の食べているチョコチップバニラの感想を尋ねてきた。
「まぁまぁね」
 口の中に広がる甘みは自分の好みのモノに違いなかったのだが、彼女はあえてそう答えた。
「やっぱり自分のお金で食べるより、奢って貰った物の方が美味しく感じるわ」
「すいません」
「別に貴男に嫌味を言ってる訳じゃないから気にしないで。そのための馬鹿はちゃんといるから」
「酷い言われようですね」
「そうかしら?」
「とっても」
「まぁ、あれも大して気にしてないと思うわ」
「そうなんですか?」
「……きっとそうだと思うわ」
 彼女はあの胡散臭い性格の魔術師を思い出して考え、口にした。彼なら口だけでは数秒渋りながらも結局は気にせずにお金を払うだろうと思う。あの魔術師は俗世に対しての関わりが極めて希薄だ。それはやはり彼が魔術師だからで、自分の住む世界がやはり違うモノであると理解しているからなのだろう。
 彼女――星海未時もそうであるように。
 しかし未時は彼ほどに世界と自分を切り離してはいなかった。それはきっと二人の世界というモノの認識がどの範囲にまで及ぶかの違いなのだろうと未時は認識している。
 星海 未時の認識する世界とは人である。
 人と人との繋がりが世界となって一つの形を生み出している。彼女にとっての世界とはそういうモノだ。だから彼女はその繋がりの世界には存在していない。ほぼ切り離された別の世界にいると言える。その世界がたまたま魔術師という世界に極めて近いモノだったために、未時の世界は今そこに繋げられているのだ。
 だからこの物理的な世界は未時が関わり合うのに気乗りしない世界とはまた別の世界なのである。
 こんな論理は完璧な自己中心的な論理に過ぎないものである。
 しかし、魔術師とはそういう存在である。
 誰よりも自己中心的で、何よりも自らの世界観を優先する。
 それ故に彼等は魔術師であり、彼等の論理は魔術として存在している。
「まぁ、そんな事は今はどうでも良い事よね。結局、事実がどうか何て本人にしか分からない事なんだし」
「確かにそうですね」
 少なくとも現時点で自分よりも強力な論理を持つ魔術師に向かって“あれ”呼ばわりする辺り、彼女の神経の太さというものが感じられる。
 が、それはどうやら彼女の隣を歩く彼も同じだったようだ。
「じゃあ、次はどこに行きましょうか?」
「クレープが食べたいわ」
「では、それで」
「でも、やっぱりお金払うのは私なのよねぇ」
「それは、まぁ……すいません」
 男が心底申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべながら謝った。
「ま、こればっかりはしょうがないわよね。最初からそういう話だったんだし。全部引っくるめて彼に付けとくわ」
 そう言う未時の言葉に、彼は自分が会う事もないであろう魔術師に心の中で頭を下げるとともに、彼を心底哀れに思った。

 さて、一方にて、蒼伊 海空は移動を開始した二人(彼女が見ているのはほぼ未時だけであるが)を大胆に尾行していた。本人は隠れているつもりであるが、それは至って本人の考えのみに限定される。ただでさえ目立つ聖光女学院の制服に、更に目立つ端麗な容姿とそれを彩る白い髪。これで目立たないというのが嘘である。
 未時が買ったのと同じアイスを自分も購入し、味わいながらその店影に隠れて海空は未時の背中を見送る。その隣にはやや遅れるようにして続く男の姿があり、やはりこれはデートなのだと彼女の中で特定される。
 しかし、彼女は自分でそう特定しつつもどこか納得出来ないでいた。
 何故ならそれは視線の先にいるのが星海 未時という存在だからである。
 彼女の持つ独特の空気は誰にも属さない一匹狼のようなモノであり、それは学院にいる人間ならば誰でもが知っている事実である。彼女は誰ともその感性、時間、そしてその世界を共有する事を選んでいない。
 そしてその唯一の例外が自分なのだ。
 放課後のほんの少しの時間を二人だけで過ごすというただそれだけの接点であるが、それは他の人達とは明らかに違う、蒼伊 海空と星海 未時だけの接点なのである。その唯一接点を持つ海空から見て二人のいる風景というのはやはりおかしく映っていた。どこか親しみが感じられないというか、微妙な距離を感じてしまう。
 その違和感の根元は未時の隣を行く男性の容姿というか雰囲気にある。
 男性の容姿はそれなりに男前と呼べるモノである。
 しかし、その線は細く、どこか頼りない。自分の意見を口に出すのにも一々躊躇ってしまいそうな感じで、明らかに影から相手をサポートするようなタイプだ。一見未時との相性は良さそうなタイプであるが(実際に考えると相性は良いのだろうが)、未時本人はあまりそういうのは好まないだろうと海空は思っている。彼女はきっと自分に物怖じすることなく、対等であろうとするタイプの人間を好むだろう。星海 未時という人間がプライドの高い人種であるため、誰かの手を借りたりするのはあまり好きではないだろうと海空は思うのだ。
 そういう考えから思考すると隣にいる彼のタイプは全くの正反対ということになる。自分の考えの全てが正しいとは海空自信も思ってはいないが、逆に全てが間違っているとも彼女は考えていない。未時との付き合いはそう長い訳でもないのだが、それでも彼女の事は他の誰よりも知っていると思うからこそ成り立つ海空なりの論理だった。
 二人の姿が二つ先の角を右に折れた所で海空はその角まで走る。数冊の教科書の重みを持った鞄で自らの特徴的な白髪を隠しながらそっと先を覗き込む。
 二人の姿は十メートル程先の場所をゆっくりと歩いている。未時の手に数秒前まであったはずのアイスクリームは既にほとんど無く、残すところはコーンの下部のみになってしまっていた。
 何処に行くのだろうと眺めていると又しても十メートルほど進んだところの角を曲がっていく二人。その先は周辺にあるファーストフード店や屋台の食べ物を持ち寄って食べる事が出来る広場だ。結構な数のテーブルとイスが設けられていて、放課後の時間帯には周辺の女子高生やカップルで賑わう場所である。
 日が斜めに傾いてきて少し広場は閑散とした空気になっていたが、それでもまだ広場を利用しておしゃべりに興じている人々は多い。彼女たちの多くは片手にクレープを持ちながら、一時の娯楽に興じていた。
 彼女たちの食べているクレープはその全てが広場の中心に居を構えるワゴン車を改造した屋台で作られた物だ。
 実のところこの広場が賑わっているのはこのクレープ屋のおかげであった。この場所にクレープ屋が出来るまではいつも人がまばらでしかなかったのだが、この値段、味共に三つ星級の屋台が出来てからは口コミでその評判が広がり、気付けば放課後の時間帯に女子高生達が最も集まる場所になってしまったのである。最近ではティーンズを対象にした雑誌の取材も良く来ており、その客足は右肩上がりのようだ。実際、今も屋台には十人強の人が列を作っている。
 未時と男性もその列に並び、十分ほどの待ち時間を立ち話で消化してクレープを一つ購入していた。お金は未時が支払っていて、そこもまた海空に違和感を抱かせるものだった。
「デートだというのに未時がお金を払うのですね」
 思わず疑問が口を突いて出る。
 デートなら普通、男性が会計を持つというのが一般的である。というのは世の男女に異論を唱えられるかもしれないが、少なくとも海空の中ではそうなっている。特に聖光女学院は粒揃いのお嬢様が多く、耳にするその類の話のほとんどは彼女の考えるとおりのモノだった。
 そして何よりも男性の隣にいる女性が未時である。彼女が霧羽 総弥(きりはね そうや)なる男性とたまに会っている事は海空も知るところであり、彼女が毎回一銭も払っていないこともまた海空の知るところである。
 そんな未時が自分でお金を払っている。
 これは明らかに異常な光景だ。
 盗み見ている海空の疑いは益々募っていく一方である。
 未時と男性はクレープを受け取ると空いている席に落ち着こうともせずにその広場を入ってきた場所とは逆方向に抜けていく。
 一瞬こちらに来るのではないかと少し慌てた海空だったが、その心配も杞憂に終わり、ホッと胸を撫で下ろす。
 二人の姿がしっかりと通路の先を曲がるのを見送ってから、海空はまたその後を追う。
 本当は食べたかったクレープの屋台には未だ長蛇の列が残っていたので、諦めなければならなかった。

 遥か高見から降り注いでいた紅い照光もついに暗みを帯びてきた。
 街灯にも白い光が徐々に灯され始め、闇を迎え入れる準備がゆっくりと進んでいく。
 未時と男は一カ所に長時間留まることなく、街を移動していく。所々で店や施設に立ち寄って短時間を消化しては又次へ。目的があるのかないのか、それすらも分かりにくいコース取りである。
 未時は合間合間に屋台やファーストフード店に立ち寄り片手間に食べられる物を買っては彼と歩いていた。話す内容はデートにはあまり似つかわしくなく、久しぶりに街に帰ってきた人間を案内するような、そんな観光ガイド的なモノだった。
「その博物館ならもう大分前に潰れちゃったわ。数年前から経営が赤字続きだったらしいわよ?」
「そうなんですか」
「今は大型のアミューズメントパークに変わってるわね。ちょっと改装してオシャレな感じで、今は結構人気みたいよ?私はあまり人の多いところが好きじゃないから行かないけどね」
「独りで行くとナンパされそうですね」
「一度見に行った時にされたわ。とりあえず叩き返しておいたけど」
 こんな感じで、彼が思い出したかのように「あそこに行きたい」と言うと、未時が「そこはどうなった」と口に出したり、まだそこが健在である場合にはそこに向かったりしていた。それは会話の内容から推測出来るようにやはり無計画なもので、あっちに行ったり、こっちに行ったりと街を四方八方滅茶苦茶に移動していた。
 しかし、それもそろそろ困難な時刻になりつつあった。そろそろ施設の中には閉館する場所も出てくる頃合いである。
「時間も、時間だし、もうそんなに回れないわね。」
「もう、そんな時間ですか。早いですね」
「特に貴男にとってはそうなんでしょうね。何年ぶりって言ってたかしら?」
「六年です」
「まぁ、それだけ空くと変わってるところも多いわよね。やっぱり」
「そうですね。でも、それでも見て、触れる事が出来て良かったです。本当に貴女にはどれだけ感謝してもしたりないくらいです」
「本当なら気にして欲しいところだけど、気にしなくて良いわ。私は大したことなんてしてないんだもの」
「それでも僕には十分大したことだったんですよ。何せ六年も待ったんですから」
「それもそうね。じゃあやっぱり気にして頂戴」
「はい。向こうに行っても忘れませんよ」
 暗闇は徐々に下に降りてきて、建物の影や路地裏はもうすっかり夜の世界に変貌を遂げてきている。昼間は“Close”の看板を下げていたバーや居酒屋などの店先も徐々に光を灯し、その夜を迎え入れる準備を整え終わろうとしていた。
「そろそろ私たちも行かないといけないわね」
「はい」
 二人の足取りは初めてしっかりとした目的のあるものに変わる。
 日差しはもう高い建物の上層にしか届かないほど低くなっていた。

 二人の姿が又しても道の暗闇に消えていく。今度は街の外れにあるビル街に向かうようだ。
 海空は十分に二人の姿が見えなくなってから隠れていた陰から出てきて、また後を追う。時間も時間で薄暗くなってきたため、夕方に未時を見かけた時よりもいくばくか近い場所まで近づく事が出来るようになっていた。
 やはり声を聞く事は出来ないが、それでも未時の表情なんかはかなりはっきり見えるようになっていた。それを見る限りでは未時の様子はいつもとそう変わらない感じだった。女の子特有のデートだからこその楽しみを浮かべるような様子は見られない。
 もっとも未時がそんなはしゃぎ様を見せる姿は海空にも想像出来ないが。
 未時達が曲がった角で足をピタリと止め、早鐘を打つ心臓を制服の上から落ち着かせようと優しくソッと撫でる。大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
 自分の特徴的な白髪が向こう側から見えないように鞄で隠しながら、海空はゆっくりと曲がり角の向こう側を覗き込んだ。
「最近のお姫様は覗きや尾行が趣味になったのかしら?」
 唐突に、鞄の上から頭を押さえられてそう言われた。
「あまり良い趣味だとは思えないわよ、海空?」
「やってみると結構楽しいのよ、未時?」
 とりあえず悪びれることなくそう言ってみた。
「ストーカーが?」
「ちょっとした恋する乙女の身辺調査よ」
「海空、貴女何言ってるの?」
 とりあえず現時点で分かった事は、お互いにそれぞれが現状を良く分かっていないという事だけだった。

「デート?全然違うわよ」
 未時は海空の疑問を瞬く間に切って捨てた。
「違うのですか?」
「もう一度言うけど全然違うわ」
 今度は笑い飛ばすように彼女は言う。
「第一、私のタイプじゃないもの」
「やっぱりそうですか」
 本人が目の前にいるのにも係わらず、二人ともサラリと凄い事を平気で口にする。
「じゃあ、この人は一体未時とどういう関係なんですか?」
 実際の所、海空が気になるのはそのただ一点のみである。
「そうねぇ……、どうなのかしら?ていうか私たちって一体どうなの?」
「いや、僕に聞かれても……」
「……それもそうね、とりあえず何というか言い表すには難しいわね」
 試行錯誤を何度か行って悩んだようだが、未時はその数秒後に面倒臭いと言わんばかりに爽やかな笑顔を浮かべて言葉を口にした。
「まぁ、良い機会よね。いつかは言おうと思っていたことだし」
「何がですか?」
「ううん、こっちの話よ。それよりも、よ、海空。これからなんだけど、まだ時間はある?」
 そう言う未時の眼はこれからイタズラをしようかと思っている子供のような輝きを含んでいる。
「それはまぁ、大丈夫ですよ」
 元々時間があったからこそ海空は未時の後をこっそりつけていたのである。時間があるかないかと聞かれれば、勿論あると答える。そして何よりもこの状況で「やっぱり帰ります」何て口にしたくもない。
「それなら海空も一緒に行きましょう。別に構わないでしょ?」
「別に僕は構いませんよ。というか僕に断る権利はありませんからね」
「じゃあ、決まりね」
「良いんですか?」
 海空の知らないところで話は勝手にどんどん進んでいく。思わず自分から首を突っ込んだくせに了解の意まで相手に取ってしまう。
「別に構わないわ。そんなに大した時間が掛かる訳でもないし、一緒に付き合って頂戴」
 ニッコリと笑む未時に、海空はもう返す言葉を思いつかず、ただ頷くことしか出来ない。
 こういう時の未時はずるいと海空は思う。そんな顔をされると彼女のやりたいようにやらせてあげたくなってしまうのだ。
「やっぱり百聞は意見にしかずよね」
 そういう未時の顔はやはり小さな子供のようで、海空も釣られて小さく微笑んだ。

 未時に連れられてやって来たのはもう後小一時間もすれば閉館してしまうのであろう植物園だった。
「大人二枚ね」
 そう言って未時はチケットを買い海空に手渡してくれる。
「良いんですか?」
「ええ、大丈夫よ」
 そう言って未時は入場券を係員に渡して中に入っていく。
 いつの間にか男性は先に中にいて、植物園入り口の傍らでこちらに向かって微笑んでいた。
「海空?」
「あ、はい。ちょっと待って下さい」
 自分が呆けている事に今更ながら気付いて、海空は慌てて入場券を係員に手渡した。慌ててしまったために券を一度落としてしまったのが少し恥ずかしかった。
 植物園に訪れているのは彼女たち三人だけであった。他に誰一人として存在する気配はなく、静かに各エリア毎の説明を流す放送が聞こえてくるだけである。この植物園は少し変わった構造を持っていて、四階建ての建物丸々全てが植物園となっていた。
 海空たちは特に何かを話す事もなく、示された順路をそのまま進みゆっくりと植物園を上へ、上へと昇っていく。
 上へと続く階段は螺旋階段になっていて、その手摺りには深い緑を自慢するような生き生きとしたツタが次の階への切れ目まで、道先を示すかのように絡みついている。植物園だからなのか、体が取り込む酸素は密度が濃く感じられ、このまま上へ、上へと進んでいくと今自分がいる世界とは違う別の世界に飛んでいってしまって、もう帰って来れないのではないかという錯覚すら覚えてしまいそうだ。
 そんなどこか神秘的な空間を海空は三人の最後尾に着いて少し遅れながらついていく。
 植物園に来ている割りには先行く二人の眼は自分とは違うモノを映しているように海空には感じられた。
 先頭を行く男性は何かこの風景に懐かしさを見ているような、どこか寂しそうな。
 未時の方は顔色を伺う事は出来ないが、何かを考え込んでいるようなそんな感じである。
 最上階である四階は天井の一部がガラス張りになっていて、夕日の残り香がまだわずかに差し込んで赤いオーロラを数カ所に垂らしていた。咲く誇る花々は海空の知っている物から知らない物まで多種多様に渡っていたが、この階には春の花が多いようだ。思い返してみると、一階から順に冬、秋、夏といった季節をイメージした構造になっていると分かる。
 しかし最上階のこの場所も目的の場所ではないらしい。先頭を行っていた彼は一度だけフロア全体を懐かしそうに眼を細めて見回すと、又迷うことなく、だが今度は示された順路とは違う道へと進んでいく。その通路には所々に“STAFF Only”と書かれた札のついた案内板が立っていて、本来なら通ってはいけないはずの場所である。
 そんな場所を平然と勝手知ったる様子で進んでいく彼。彼はこの植物園のスタッフか何かなのかもしれない。それなら入り口で未時と自分だけが入場券を買っていたのにも納得がいく。彼がスタッフであるなら別に入場券を買う必要などないかもしれないからだ。
 彼の後ろに未時も続く。
 そして自分も。
 程なくして今度は扉に辿り着いた。フロアの中を彷徨っていると思っていたのだが、微妙に登りになっていたらしい。扉の近くにある窓から外を覗くと世界が四回にいる時より少し小さく見えた。
 二、三段程の小階段の奥に構える鉄製の扉だった。
 少し錆びたような赤褐色が所々に散りばめられていて、扉の取っ手には植物園のフロアから伸びてきたツタが絡まっている。きっと長らく放置されているのだろう。
「鍵は何処?」
 扉を前に佇む彼に向かって未時は尋ねた。
「そこのアーチの左の柱の上の方に、ツタに絡めて箱が入っているはずです」
 言われるままに未時はツタに覆われた近くのアーチの柱に手を突っ込んで中を探る。
「これね?」
「はい」
 そう言って取り出したのはシンプルなデザインの青い箱。一見指輪でも入っていたんじゃないだろうかと思えるようなそんな大きさの箱だ。
 中を開けるとそれこそシンプルな良くあるタイプの鍵が一つ。
 未時は何も言わずにその鍵を手に取ると鍵穴に差し込んで捻る。
 ガチャリと少し鈍い音を立てて鍵は空き、更に鈍重な音を響かせて扉は久方ぶりの風を呼び込んだ。
 秋風と共に紅い斜光が目の前に広がる。
 植物園の中にいた時よりも遥かに深い緑の香り。
 しかし、それにはむせ返るような押し付けがましさはなく、どこか心地良い。
 そこはそんな空中庭園だった。
 床一面がマジックミラーになっているのか下の階下の様子が見通せる。扉が何年も放置されていたとは思えない見事な庭園だ。
「……遅くなってゴメン。ようやく君に会いに来れたよ」
 彼は庭園の一番奥、最も植物の生い茂る場所に微笑みかけていた。
 それは墓標であった。誰かがそこで静かに眠っているのだ。
「貴女には感謝してもしきれませんね」
 未時は静かに首を振り、答える。
「私は何もしていないわ。だから貴男に感謝される覚えも無いわね。私は少し貴男に付き合ってあげただけよ」
「それでも僕にとっては十分に感謝すべき事ですよ。貴女がいなければ僕はずっと彷徨い続けなければならなかったかもしれない」
「どういう事ですか?」
 二人にしか分からない話に海空は疑問を抱かずにいられない。
 海空が見ていた限りでは未時が彼に特別な何かをしていたとは思えなかった。ただ一緒にいて、街を歩いていただけだ。
 彼が視線を未時に向け、未時がそれを一度だけ首を縦に振り肯定する。
「……僕はもう死んでいるんですよ」
 少しの躊躇いを踏んで彼は言う。
「もう六年も前の事なんですけどね。僕はこの街で交通事故に会って死んだんですよ。彼女と一緒に」
 そう言って彼はまた色とりどりの花で覆われた墓標に優しい目を向ける。
「結婚式を挙げる三日前の事でした。そして一緒になるはずの僕達はこうして別々に弔われる事になりました」
「で、彼等はその弔いが不満だったのよ。一緒にいる事を誓い合ったんですからね」
「未時、そんな言い方は――」
「良いんですよ。事実その通りですから」
 彼は穏やかに未時の言葉を首肯する。
「僕達は本当に不満だったんですよ。何よりこうなる事が僕は何となく分かったんで、意識が途切れる直前、僕は彼女に必ず迎えに行くからって言ったんですよ」
 「僕達の結婚はどっちの両親も余り賛成してなかったんで」と彼は付け加えて、先を続ける。
「それで僕はこうやって彼女を迎えにこの街まで戻ってきたんですけどね、何でかこの場所には入れなかったんですよ。他の物体はあっさり通り抜けられるのにこの場所に通じる壁や扉だけは例外でずっと困っていたんです。
 途方に暮れましたよ。本当に。
 最初の内は必死になって何度もそれこそ手段を選ばずに試してみました。でも、ダメでした。そして気付けば六年です」
「六年という月日は言わないでも分かると思うけど長くないわ。彼にはもう霊として留まる為の力がほとんど残っていなかったのよ。だから彼には自分の存在維持と目的達成の為のツールが必要だった」
「それが未時なの?」
「そうよ。私はその彼の望みを二つとも叶える事が出来る稀な存在だったのよ」
「それは彼が現世に残るために未時の命をもらったりとかそういうことですか?」
 自然と声に力が籠もったのが分かる。確かに彼を助けてあげたいとは思うが、それで未時の命に危険が伴うのなら話は別だ。海空は未時を引っぱたいてでもそれを止めるつもりだ。
「いいえ、彼女の命に危険はありませんよ。ただ、僕をこの世に留めておくためにはある要素が必要で、それを備えている人間が少ないだけなんです」
「そうなんですか」
 彼の言葉にホッとする。
 しかしそれはそれで海空の胸には又別の疑問が沸き上がってくる。
「じゃあ、その要素っていうのは……?」
 その言葉には未時が答えてくれた。
「魔力よ」
「魔力?」
「はい、僕が僕という存在を維持するためには魔力のような不可思議な力が必要だったんです。それを彼女は多く備え持っていたんですよ。まぁ、僕もそれが魔力だっていう事を彼女に聞いて今日初めて知ったんですけどね。僕は彼女から魔力を供給してもらっていないと貴女とこうして会話する事も、貴女に僕の姿を認識して貰う事も叶わないんです」
「そして一昨日彼は私に声を掛けて来たって訳よ。後は海空が覗いていた通りよ。彼と彼女の思い出の場所を回って時間を潰していたの」
「一昨日からずっとですか?」
「ええ。いつも時間を見計らってはこの植物園を見に来ていたんだけど、なかなかタイミングが合わなかったのよ。ここに来るまでの所をスタッフや他のお客さんに見られる訳にもいかないでしょう?」
「じゃあここ数日ずっと図書室に来なかったのは――」
「彼に私の魔力を供給するためよ。私が会った時には既に彼はその存在を維持するのも危ない状態だったから、出来るだけ長時間一緒にいて魔力を渡す必要があったのよ」
「そうなんですか」
「色々といらない心配をさせてしまったようですね。すいませんでした」
 彼は深々と頭を下げながら謝罪する。
「別に良いわよ。どっちみち私の事はいつか話そうと思っていた事だし、そのタイミングが今日来たって思えば良いだけだから」
「私はもっと早くに話して欲しかったです。心配したんですよ?」
「それでも数日しか変わらなかったと思うわよ?」
「数日も、ですよ。未時」
「そんなモノかしら」
「そんなモノですよ」
「今度から気をつけるわ」
「絶対ですよ?」
「出来るだけ気をつけるわ」
「絶対です」
「……気をつけるわ」
「仲が良いんですね」
 二人のやりとりを優しく眺めながら彼は言う。
「出会えたのが貴女達で本当に良かった」
「私もです。貴男に会えたから私は未時の事を又一つ知る事が出来ました」
 海空の言葉に彼はやはり優しい笑みで答えてくれる。
「そろそろ逝かないと。僕が言うのも何ですが、貴女達の未来が幸せな世界であることを祈っていますよ」
 そう言った彼の姿が墓石と一つになるように薄く、薄く世界に溶けていく。
「ああ、本当に待たせてしまったね。でも、その分これからもずっと、君と一緒にいるよ……」
 その声は無念の死を遂げた人間とは思えないほどに幸福に満ち溢れていて――
「ありがとう……」
 最後にその言葉だけを置いて、彼は旅立っていった。
 愛しい人の所へ。
 今度はきっと彼は彼女を守っていけるだろう。
 少なくとも海空はそう信じている。
 そしてきっと未時も――
 夕日の斜光がついに途切れようとしていた。その先に待つのは静かな、静かな夜。
 もう後五分もしない内に世界は暗く塗り替えられてしまうだろう。
 その数分の間に、秋風が空中庭園を舞った。
 この季節、時間にまるで似つかわしくない強風だった。まるで今まで吹かなかった分をまとめて一気に吐き出したような、そんな強風。
 風は優しく吹き荒れ、一瞬だけ未時と海空二人の視界を奪った。
「――!!」
 その一瞬は二人が眼を閉じている間に未時のベレー帽を奪い、訪れる闇の中に飛ばしていく。
 風の余韻に髪が揺られている中で、届かないと分かっていても反射的に手を伸ばす。
 そして気付いた。
「花が――」
 花びらが舞っている。
 視界を埋め尽くすだけでも飽きたらず、空中庭園全体を舞台として舞い踊っている。
 赤、青、白、黄に言い表し難い見た事のないような色の花弁まで、そこに咲いていたありとあらゆる花の花弁が空中庭園一杯に、紅く染まった世界を彩っていた。
 それはもう逝ってしまった思いが起こしたお礼代わりの奇跡なのかもしれない。
 そうであって欲しいと海空は思う。
 そんな奇跡ならいくらあっても良いと思うし、理屈無しに素敵ではないか。
 だってこんなに心に響くのだから。
 こんなに優しい気持ちになれるのだから。
 未時も同じ気持ちになっているのだろうか?
 そうだと良いなと思う。
 彼女はとても優しい人だと海空は知っているから。
「……ねぇ、海空。私は彼の役に立てたのかしら?」
 静かに、静かに。
 やってくる夜の邪魔をしないように未時は言葉を海空に届けてきた。
「私は何もしていないに等しいわ。本当に、何も。
 ただ、彼に会って、一緒にいただけだもの。
 魔力の供給にしろ、最後の一瞬にしても、本当なら彼を彼女にまた会わせてあげる事も可能だったに違いないのに。まだ、私には扱える魔術の論理がないから、それも叶わなかった」
 空を踊っていた花びら達が、夜の訪れと共に一つ、又一つと生えた羽を休める為に舞い降りてくる。
 その花びらの一つを手のひらに降ろしながら、未時は自らの不安を口にする。
「それでも、私は彼の力になれたのかしら……」
 最後のそれは最早呟きと言っても良いくらいの弱々しい言葉だった。
 不安を吐き出すように、漏らして、彼女は今にも泣き出しそうな顔をして海空の瞳を見つめていた。いつもは力強さや我が侭さを携えた瞳が、今は誰よりも弱々しい。
「未時……」
「ゴメン、変な事聞いた。気にしないで」
 「帰りましょう」そう言って未時は空中庭園の扉に手を掛けた。
「例え――」
 しかし、そのノブが回されるのを海空は止める。
「例え、未時が何もしていないと思っていても、それでも貴女は何かをしたんですよ」
 海空は彼女に知って欲しいと思う。
 星海 未時という彼女自身の存在にもっと自信を持って良いんだという事を。
「確かに、望めば他にも色々してあげることは出来たかもしれない。もっと素敵な終わり方を演出する事が出来たかもしれない。
 でも、しょうがないじゃないですか。
 今の未時にはそれが出来なかったんですから」
 これはきっと事実だろう。未時の悲しげな背中がそうであることを語らずに、語っている。せめて彼に不安を与えないようにと、必死になって強がっていたのだろう。
 追求すればもっと綺麗な、彼だけでなく未時自身も満足させる事が出来るような終わり方も出来たのかもしれない。
 しかし、それは理想であり、現実ではない。
 理想と現実の距離とはどんな時でも遠く、簡単に辿り着けるのは残酷なモノばかりだ。
 でも、大事なのはきっと理想をただ追う事だけではないはずだ。
 結果が全てなんて事はきっとない。
 その過程にだって、理想に匹敵するくらい素敵な物語を描けるはずだ。
「理想をひたむきに目指す事も素敵な事だと思いますけど、未時はもっとその道端も見てあげた方が良いと思いますよ?」
 彼女ならそんな絵を描いてくれると海空は信じている。
「未時が彼に出会った事で、彼は彼女を迎えに来る事が出来たんです。
 例え、未時自身が何も出来なかったと思っていても、この結果は貴女がいなければ起こらなかったかもしれない。
 例え、彼を再び彼女に会わせてあげる事が出来なかったとしても、彼は彼女の元に辿り着く事が出来たんです。
 その標を示してあげたのは、示す事が出来たのは貴女じゃないですか、未時」
 海空は知っている。
 ついこの間、彼女が霧羽と共に出かけてから少し元気が無かった事を。
 きっと今日もその時の事を思い出しているのだという事を。
「だから、そんなに悲しい事を言わないで下さい」
 海空はそっと後ろから扉の前に立つ未時を抱き締める。
「じゃないと私が泣いてしまいます」
 自分の思いが少しでも多く彼女に伝わるように、そんな思いをたくさん込めて、海空は未時を優しく抱き締めている。
 紅い光が完全に夜に隠れてしまってから、未時は小さく声を出す。胸に回された海空の手を優しく取り、少し困ったような、けれども満たされたようなそんな声で彼女に話し掛ける。
「……もう、そんな事言いながら貴女もう泣いているじゃない」
「しょうがないじゃないですか。未時のせい何ですから、ちゃんと責任を取って下さい」
「どうすれば許してくれるの?」
「そうですね……」
 少しだけ悩んだ振りをして、焦らすようにちょっとだけ間を空けてから海空はその願望をぽつりと漏らした。
「じゃあ、次の休みに私とデートして下さい。それからもっと私と一緒にいて下さい」
「もっとって?」
「学校に行く時も、休み時間も、放課後も。もうずっとです」
 「そうじゃないと許してあげません」最後の方は恥ずかしくて消え入りそうな声になってしまったが、もう一度言うのは嫌だった。そんな事をしたら恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。
 すっかり暗くなってしまっても、自分の紅くなってしまった顔を見られそうな気がして、海空はちょっと強く未時を抱き締めてその肩口に顔をギュッと押しつける。この熱がそうさせた本人に移ってしまえと祈りながらそうしていた。
 こっちの恥ずかしさを知ってか知らずか、いやきっと知らないだろう未時は海空の心情とは見当違いの方向から言葉を引っ張ってきた。
「私は魔術師よ?それでも良いの?」
「そんな事関係ありません」
「普通じゃないでしょう?自分の事をそう言う人なんて?」
「それでも未時が星海 未時という存在であることに変わりはないじゃないですか」
 一方で未時の方も自分がどうやって話そうか散々悩んだ事柄をこうもあっさりと蹴り飛ばされて拍子抜けしていた。これはこれでそれなりに困るモノだ。
 しかし、それは間違いなく、未時にとって嬉しい厄介事だった。
「でも、私とデートって言っても何処に行くつもりなの?」
 クツクツと笑いを噛み殺しながら尋ねる。
「何処でも良いじゃないですか。きっと二人だと楽しいですよ?楽しみ方は行ってから決めれば良いんです」
「それもそうね」
「そうです。あ、でも次の休みには絶対にクレープ屋には行きますからね?」
「何でクレープなのよ?」
「今日は未時達を見失わないようにしないといけなかったので、食べられなかったんです。だから絶対に行きます」
「OK、了解よ。あ、そう言えば携帯も見に行かないといけないわね」
「そうでした」
 デートの計画が続々と浮上してくる。気付けばその話題は到底一日では周り出来ないようなデートコースを作り上げていた。
 でも、それも良いと思う。
 何回だって、何度だって、二人で行ける機会はあるのだから。
 今日という日が終わっても、又明日二人で。
 又その次の日も、二人で――


                            Prelude Zero Episode4“今、君に出来るほんの少しの事”Fine.


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